近年「いらない土地や家の相続をどうすれば良いか」というご相談が増えています。
相続と聞くと、多くの方が「プラスの財産」を受け継ぐイメージを持たれるかもしれません。しかし現実には、土地や家といった不動産が負担になるケースも少なくありません。
本記事では、相続で問題となる「いらない土地や家」に焦点を当て、その背景や対処法をわかりやすく解説します。

なぜ「負動産」問題は生まれるの?

相続で直面する問題のひとつに、「負動産」と呼ばれる状況があります。
負動産とは、所有していることで費用や手間ばかりかかり、持ち続けるメリットの無い不動産のことを指します。このような不動産が相続される背景には、いくつかの社会的要因があります。

1. 少子高齢化によるもの

少子高齢化が進み、地方の人口減少が著しい状況にあります。
かつては価値があった土地や家でも、人口減少が進む中で需要が減少し、不動産としての価値が下がるケースが増えています。
このような地域の不動産は、相続人にとっては使い道のない負債になりやすいのです。

2. 固定資産税や管理費用がかかる

不動産は、所有しているだけで固定資産税等の税金が課せられます。たとえ利用していなくても、毎年の税負担が発生する点は注意が必要です。
また、土地や建物を放置すると、雑草が生い茂ったり、建物が老朽化して倒壊の危険が生じたりすることがあります。そのため、定期的な管理のための維持費用や手間も無視できない問題です。
空き家の場合でも、「住宅用地の特例」により税額が軽減されますが、きちんと管理されず放置されている「管理不全空家」だと指定されてしまうと、軽減措置が外れ、最大6倍もの税金が課されることになります。

3. 相続登記が義務化された

2024年4月1日から、相続登記が義務化されました。
相続人は、その所有権の取得を知った日から3年以内に登記を行わなければ、10万円以下の過料が科される可能性があります。

不動産を手放す方法

相続放棄とは、相続人が相続そのものを辞退する手続きです。この方法を選ぶことで、不要な不動産をはじめ、被相続人の財産や負債を一切引き継がないことができます。
相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に、家庭裁判所へ相続放棄の申し立てをします。相続放棄が受理されると、不動産を含む相続財産に関する権利・義務がすべて消滅します。

<メリット>
負債や管理義務から解放される
相続放棄をすると、固定資産税や管理費用、さらに借金などの負担もすべて回避できます。相続財産に負債が多い場合には、特に有効な手段です。
手続きが比較的シンプル
家庭裁判所での手続で、自分だけで行うことができるため、他の処分方法に比べて簡単に手放すことができきます。

<デメリット>
× プラスの財産も放棄しなければならない
預貯金や株式などのプラスの財産が含まれている場合でも、相続放棄を選ぶとそれらも受け取れなくなります。
× 次順位の相続人に迷惑がかかるかも
相続放棄をした場合、次順位の相続人に相続権が移るため、親族に負担を押し付けてしまうリスクがあります。

相続した不動産に一定の資産価値がある場合には、売却を検討するのも有効な方法です。
手続きは、査定から始まります。不動産会社に依頼し、土地や建物の価値を評価してもらいます。
次に、不動産会社を通じて購入希望者を募集し、購入希望者を見つけ売買契約を締結します。
所有権が買主に移転され、不動産の引き渡しが完了します。

<メリット>
現金化できる
売却代金を得ることで、経済的な負担を軽減しつつ、相続財産を活用することができます。

<デメリット>
× 買い手が見つからず、時間がかかる場合がある
需要の少ない地方の土地や老朽化した建物の場合、買い手が見つかるまでに時間を要することがあります。また、解体費用や整地費用が必要な場合もあるため注意が必要です。

売却が難しい場合、自治体や法人、あるいは隣接地所有者に土地や建物を寄付・贈与という手段もあります。自治体への寄付は、一定の基準を満たせば受け入れてもらえます。また、隣地所有者への贈与は、土地が一体化することで利便性が向上する場合におすすめです。

<メリット>
無償で引き取ってもらえる可能性がある
使い道がなくても、土地が隣接地所有者や自治体にとって有益であれば、引き取りに応じてもらえる場合があります。

<デメリット>
× 受け取りを拒否されることがある
資産価値が低い不動産や管理が難しい土地は、寄付を申し出ても断られる場合が多いです。
× 贈与税が発生する場合がある
贈与として取り扱われる場合、貰う側に税負担が生じることもあります。

相続土地国庫帰属制度は、2023年に施行された新しい制度で、不要な土地を国に引き渡すことができます。
手続きとしては、まず法務局へ相談に行きます。相談の内容をもとに申請書を作成し、土地の状況を示す写真や資料とともに法務局に提出します。国が土地を引き取る条件を満たしていれば承認通知が届くので、その後、負担金を納付します。

<メリット>
不要な土地だけを手放せる
他の相続財産を保持しつつ、不要な土地だけを国に引き渡すことができます。

<デメリット>
× 審査が必要
土地に建物がないことや汚染がないことなど、一定の条件を満たしていない場合には利用できません。
× 費用がかかる
審査手数料(14,000円/筆)や負担金(宅地であれば原則20万円)が必要で、経済的負担がかかります。

手放す方法を選ぶポイント

1. 土地や家の状態を正確に把握する

土地や建物に資産価値があるかどうかは、処分方法を左右する大きな要因です。まずは地元の不動産会社や専門家に査定を依頼しましょう。
売却が可能であれば一番良いのですが、価格が低ければ他の選択肢も視野に入れる必要があります。
また、老朽化した建物が建っている場合、解体費用が必要になることがあります。
そして、土壌汚染や斜面地といった特殊な条件がある場合には、寄付や国庫帰属制度の利用が制限されることがあります。

2. コストと得られるメリットを比較する

売却や国庫帰属制度を選ぶ場合、手数料解体費用負担金等が発生することがあります。して、相続放棄を家庭庭裁判所へ申立てるには、印紙代等の費用がかかります。
しかし、処分に伴う初期費用が高額であっても、固定資産税や管理費用などの長期的な負担が解消されることで、結果的には大きなメリットが得られる場合があります。

3. 次世代への影響を考慮する

不動産を複数人で共有名義にすると、売却や管理の際に全員の同意が必要になります。次世代に負担を残さないためにも、あらかじめ単独名義にしておくことや、処分方針を決めておくことが重要です。
また、相続人が高齢化すると、認知症などで意思決定ができず、売却が難しくなる場合があります。不要な不動産は早めに処分することをおすすめします。

4. 専門家に相談する

不動産の価値や適切な処分方法について、自分だけでは正確な判断が難しい場合があります。法書士や不動産会社に相談することで、専門的なアドバイスを受けることができます。

司法書士へ相談するメリット

複雑な手続きも、司法書士のサポートを受ければスムーズに進められます。
相続した不動産を処分する際には、まず相続登記が必要です。2024年4月から相続登記が義務化され、これを怠ると売却や寄付ができなくなるだけでなく、過料のリスクもあります。
司法書士は登記の専門家として、必要書類の準備から申請までを代行し、安心して手続きを進められるよう支援します。
さらに、複数の相続人がいる場合の遺産分割協議や、共有名義に起因するトラブルの防止もサポート。
また、不要な土地を国庫へ帰属させたり寄付したりする際の複雑な手続きも任せることができ、不動産の処分を安心して進められます。

不要な不動産を処分する際には、土地や家の状態、コストなど様々な点を考慮し、最適な方法を選ぶ必要があります。複雑な手続きや法律の問題が絡む場合には、司法書士が力強い味方となります。
当事務所では、相続登記や遺産分割協議書の作成から、国庫帰属制度や寄付手続きのサポートまで幅広く対応しています。
不要な不動産にお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。
安心して前に進むための第一歩を、一緒に踏み出しましょう。