
会社設立を考えている方の多くが最初に悩むのが「資本金はいくらに設定すればいいのか?」という問題です。法律上、資本金は1円からでも設立できますが、その額は取引先や金融機関、税務署、さらには許認可取得にまで影響を及ぼします。
安易に最小限の額を設定すると、事業開始後に資金繰りが苦しくなったり、信用力を疑われる原因になりかねません。
この記事では、司法書士の視点から、資本金の決め方、業種別の目安、少なすぎる場合・多すぎる場合のリスクを詳しく解説します。
1.資本金の額は、どうやって決めるの?
資本金は「法律上の最低額」ではなく「自社の事業計画や業種に合った適正額」で決めることが重要です。
たとえば、飲食業なら開業費用と3〜6か月分の運転資金を賄える300万〜500万円、建設業なら許可基準を満たす500万円以上、ITやサービス業なら少額の100万円程度でも始められるケースが多いです。
資本金が少なすぎると資金不足・信用不足に陥りやすく、多すぎると法人税の負担や運転資金の圧迫につながる可能性があります。
以下で、基本の考え方と業種別の具体例を詳しく見ていきましょう。
2.資本金の決め方
2-1.そもそも資本金って何?
資本金とは、会社設立時に出資者が会社に払い込むお金のことです。設立後の運転資金や設備投資の原資となり、会社の経営体力を示す指標の一つです。
会社法上、資本金は1円からでも設立可能ですが、現実のビジネスでは少なすぎる資本金の会社は、取引先や金融機関からの信用を得にくいです。
また、許認可が必要な業種では、資本金の最低額が要件として定められている場合があります。
2-1.必要な事業資金を試算する
資本金額を決めるとき、まず試算すべきは3ヶ月~半年までの運転資金です。
具体的には、
①開業費用(店舗・設備投資、仕入れ)
②初期の運転資金(3ヶ月~半年か月分の家賃、人件費、光熱費、広告宣伝費など)
③緊急時の予備資金
を計算します。
たとえば飲食店なら、物件取得費・内装工事費・厨房機器などで最低でも300万円程度が必要になることが多く、運転資金を含めると500万円近く必要です。
資本金はこれらの資金の原資と考えるため、自己資金・借入計画と合わせて慎重に見積もりましょう。
2-2.対外的信用(融資・取引先の印象)を考慮する
資本金額は、外部からの信用度に直結します。
例えば、資本金1円の会社と、300万円の会社では、取引先や金融機関が持つ印象が大きく異なります。
資本金が少ないと「資金繰りに余裕がないのでは?」「事業継続力が低いのでは?」と疑われやすく、取引契約や融資審査に悪影響を及ぼすことがあります。
資本金が多いほど信用度は高まりますが、現実の事業規模とかけ離れた過大設定は避け、事業計画に見合った「十分かつ適正な額」を心がけましょう。
2-3.許認可・免許の要件を確認する
業種によっては、資本金が許認可取得の要件になる場合があります。
たとえば建設業許可は、一般建設業で資本金500万円以上(または預金残高500万円以上など)、特定建設業許可であれば、資本金2,000万円以上かつ自己資本4,000万円以上が求められます。
また、人材派遣業では資本金2,000万円以上が要件となっています。
許認可要件を満たせないと事業そのものが始められないため、起業前に必ず必要な許認可とその資金要件を確認しておきましょう。
3.業種ごとに見る、資本金の額
3-1.飲食業・小売業
飲食業や小売業は、比較的少額の資本金(100万円~500万円程度)で始めるケースが多いです。
ただし、店舗取得費、内装工事費、設備投資、仕入れ、スタッフ採用費などを自己資金で賄う場合は、最低でも300万円以上の資本金が必要になることが一般的です。
個人経営のカフェや小規模小売店なら100万円程度でも開始できますが、チェーン展開や多店舗化を目指す場合は、最初から大きめの資本金を設定することで信用力を高め、資金調達の幅を広げることができます。
3-2.建設業・不動産業
建設業は、先述の通り許可要件として資本金500万円以上(一般建設業)が必要です。
また、不動産業では、営業保証金として1,000万円を供託する必要があります(保証協会に加入する場合は60万円程度の弁済業務保証金分担金)。
これらの業種は、許可・登録にかかる初期コストや営業保証金を確保できる資本金を用意しなければ事業がスタートできません。資本金は単なる目安ではなく、法的・実務的な要件として確保すべきものと理解してください。
3-3.IT・サービス業
IT企業やサービス業は、比較的資本金の制約が少なく、100万円前後でも十分に立ち上げられることが多いです。
ただし、資本金があまりに少ないと、開発やマーケティングにかける資金が不足したり、取引先からの信用が得られないことがあります。
特に法人向けのBtoBサービスを行う場合は、最低でも300万円程度の資本金を設定しておくと、取引先からの信用を確保しやすく、スムーズな契約や提携が進められます。
3-4.貿易業・輸出入関連事業
貿易業や輸出入関連事業では、通関士や特定の免許が必要な場合がありますが、資本金自体に法律上の制約は基本的にありません。
ただし、海外取引では信用調査を受ける機会が多く、資本金の額は信用力の一指標になります。資本金が100万円程度だと海外企業から信頼を得にくくなるため、高めに設定するケースもあります。
事業規模や輸出入の取引先国に応じて、慎重に検討しましょう。
4.資本金が少なすぎる場合に起きるリスク
資本金を最低限の1円や数万円に設定して会社を設立することは法律上可能ですが、現実の事業運営ではさまざまなリスクがあります。
まず、資金不足です。開業後に売上が安定するまでの運転資金が不足し、追加出資や借入が必要になるケースが多いです。
また、対外的信用の低下も問題です。金融機関の融資審査や取引先の与信調査で「資本金の小さい会社=資金力が弱い会社」と判断され、契約を断られることもあります。
5.資本金が多すぎる場合に起きるリスク
一方で、資本金を必要以上に多く設定するとデメリットも生じます。
まず、1,000万円を境に、法人住民税の均等割(最低課税額)が増加します。
また資本金1,000万円を超えると、開業後の2事業年度分の消費税が免除されなくなります。
また、資本金は会社の純資産として扱われるため、個人事業と異なり、引き出して自由に使うことができません。資本金=会社の借金と同様に、株主の責任範囲となるため、安易な増額はリスクを伴います。
実態に見合わない過剰資本金は、事業のキャッシュフローを圧迫する原因になるので、冷静に事業計画に基づいて判断しましょう。
6.資本金は「ちょうどよい額」を戦略的に決めよう
資本金は、会社の信用力、事業運営の安定性、許認可や補助金の可否にまで影響を及ぼす重要な要素です。
「できるだけ少なく」と考えるのではなく、「事業に必要な資金をカバーできる十分な額」を基準に設定することが、成功する会社設立の第一歩です。
業種や事業計画によって必要な金額は異なり、自己判断では難しい場面もあります。
ゆかり法務事務所では、資本金設定から会社設立手続き、許認可取得までワンストップでサポートしております。迷ったときはぜひ専門家にご相談ください。