
「借金があるみたいだけど、本当に放棄すべき?」──多く相談を受けるのが、その判断に迷うケースです。相続放棄すると、最初から相続人でなかったものとして扱われ、原則として取り消しはできません。判断を誤ると後悔につながることもあります。この記事では、相続放棄の仕組み、実際によくあるケース、判断のポイント、注意点までを司法書士がわかりやすく解説します。
1.相続放棄とは?
相続放棄をすると、その人は最初から相続人でなかったものとして扱われ、財産を一切引き継ぎません。相続の場合、借金などの負債も含まれるため、財産全体がマイナスになる場合に選ばれることが多いです。年間で約28万件行われており、全体の約15%前後の人が相続放棄を選んでいます。
2.3つの相続、メリットとデメリットを比較
相続人が選べる方法は「単純承認」「限定承認」「相続放棄」の3種類です。状況によって最適な選択は異なるため、財産内容をよく調べたうえで慎重に判断することが大切です。
2-1.単純承認とは?
プラスの財産もマイナスの財産も、すべてを引き継ぐ方法です。相続の基本の形で、何も手続をしなくても自動的に単純承認をしたとみなされます。
〇 最も手続きが簡単で、そのまま財産を受け取れる。
× 借金もすべて引き継ぐことになり、知らない借金が後から出てくるリスクもある。
2-2.相続放棄とは?
すべての財産を放棄する手続きです。
〇 借金を完全に避けることができ、安全性が高い。自分1人でできる。
× プラスの財産も一切受け取れない。期限(3ヶ月)を過ぎると選べなくなる。
2-3.限定承認とは?
プラスの財産の範囲内で借金を返済し、残りの借金を免除してもらう方法です。手続きが煩雑なため、実務での利用は多くありません。
〇 相続財産の範囲内で借金を返済すればよく、財産が残ればもらうことができる。
× 相続人全員の同意が必要であり、手続きが複雑で時間もかかる。
3.相続放棄を選ぶケースを、具体例を含め紹介
3-1.マイナスの財産が多い場合
相続放棄を検討すべき典型例が、マイナスの財産がプラスを大きく上回るケースです。相続ではカードローン・税金の滞納・連帯保証債務などもすべて引き継ぐため注意が必要です。
例)父親が亡くなった後、自宅の住宅ローンが1,500万円以上残っていることが判明した。自宅は老朽化しており900万円ほどでしか売れず、預金は約500万円しかない。
3-2.管理が難しい財産がある場合
財産に金銭的価値があっても、維持や処分が困難で、相続することが負担となるケースもあります。
例)父の築40年ほどの別荘があり、維持費や固定資産税だけで年間数十万円かかっている。かなり古びていて、売却しようにも買い手が見つからず困っている。
例)父が山林を所有していたが、境界も分からず、草木の管理で近隣と度々トラブルになっている。倒木などの責任を問われてしまうので、維持管理も欠かせない。
3-3.親族間のトラブル回避
親族間のトラブルを避けたい場合、例えば、相続財産が少ない、または特定の相続人だけが財産を取得する方が自然なケースでは、争いを避けるために放棄を選ぶ人います。
例)長女がずっと母の介護をしており、次女は遠方のためほとんど関わらなかった。財産は自宅と預金が少額のみで、次女が相続分を主張すると、長女の生活が不安定になってしまう。
例)20年以上連絡をとっていない兄が亡くなり、兄弟5人が相続人となったが、関係が悪いため関わりたくない。遺産分割協議書に押印するのも嫌だ。
3-4.被相続人と疎遠で、財産状況が分からない場合
長年連絡を取っておらず、財産の内容が全く分からない場合も注意が必要です。借金や滞納が隠れていることも多く、安易な相続で大きな負担を抱えるケースもあります。
例)亡くなった兄とほぼ絶縁状態で、突然役所から兄が死亡したと連絡が来た。部屋を確認するといくつか請求書や督促状が出てきた。
4.相続放棄するか迷っている時、判断のポイント
相続放棄をすべきか迷う時は「財産の把握」「自身の将来の負担」「家族関係」の3つを軸に考えると分かりやすくなります。
まずは「財産の把握」、財産を全て洗い出し、プラスとマイナスを比較することが重要です。財産の全体像がつかめない場合は、無理に調査を続けるよりも、期限内に放棄をする方が良いケースもあります。
次に「自身の将来の負担」、維持・管理のコストが高い資産を引き継ぐと、将来の生活を圧迫する可能性があります。短期的なメリットにとらわれず、10年・20年先まで考えて判断しましょう。
さらに「家族関係」、これも無視できません。わずかな財産を巡って口論になり、相続をきっかけに、大切な家族と疎遠に…ということも、珍しくありません。そんなトラブルを避けるために放棄を選ぶ人もいます。
そして最後に、迷ったときは専門家に相談することをおすすめします。司法書士や弁護士が状況を整理し、あなたにとって最も負担の少ない選択肢を一緒に考えてくれます。後悔しないためにも、早めの相談が肝心です。
5.相続放棄の手続き方法
下記ページをご覧ください。
6.相続放棄の注意点
6-1.原則、3ヶ月をすぎると出来ない
原則として「相続の開始を知った時から3ヶ月以内」に家庭裁判所へ相続放棄の申述を行わなければなりません。この期間を過ぎると放棄は認められず、「単純承認」とみなされてしまいます。財産調査が間に合わない場合は、期間の延長の申し立てをすることもできます。
「気付いたら3ヶ月を過ぎていた!」もう相続放棄はできない?
・被相続人に相続財産が全く存在しないと信じた相当の理由がある
・相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があること
このような事情で、3ヶ月以上経過していても相続放棄が認められる場合があります。専門家にご相談ください。
6-2.一部でも財産を使用すると放棄できなくなる
相続財産の一部でも処分・使用すると、放棄できなくなるおそれがあります。葬儀費用の支払いなど、最低限の費用負担は例外として認められる場合がありますが、事前に専門家へ確認することが望ましいです。
6-3.代襲相続が発生しない
相続放棄をした場合、相続放棄した人の子供(孫など)が代わりに相続する「代襲相続」は発生しません。例えば祖母が亡くなり、息子である父が相続放棄した場合、父の子(祖母にとっての孫)は相続人とはなりません。
7.相続で迷ったら専門家に相談を
相続は、財産の内容・家族関係・法律上のルールが複雑に絡み合うため、自分で判断するのが難しいこともあります。財産の調査が進まない、負債があるか分からない、不動産の評価や管理に不安がある…。そんな時、北千住ゆかり法務事務所の相続に強い司法書士が、あなたに最も適した選択肢を一緒に検討していきます。お気軽に無料相談をご利用ください。
「相続の手続きがわからない」「遺言書を準備しておきたい」「生前対策を教えてほしい」など、当事務所には、さまざまなお悩みを抱えた方がいらっしゃいます。皆さまにとって難しい法律のことが、少しでもわかりやすいように、どのような相談にも「丁寧でわかりやすい説明」を心掛けています。
どうぞ、お気軽にご相談ください。
司法書士 劉 洋






