相続放棄は、被相続人(亡くなられた方)の財産を一切引き継がないようにする手続きです。
相続放棄には明確な規定があり、理解せずに進めると失敗する可能性があります。
本記事では、相続放棄についてや手続きの流れ、注意すべきポイントをわかりやすく解説いたします。

相続放棄とは?

相続放棄とは、相続人として遺産を相続する権利を放棄することです。
プラスの財産(不動産や預貯金)とマイナスの財産(借金や保証債務)のすべてを引き継ぐことができなくなります。
また、被相続人の財産に対する一切の権利や義務が消滅します。
具体的には、借金の返済義務がなくなったり、相続人ではなくなるので、遺産分割協議にも関与できなくなります。

単純承認、限定承認、相続放棄、どれを選ぶ?

相続発生時には、次の3つから相続方法を選択する必要があります。
どれを選択するかで相続できる財産の範囲が変わるので、状況に合わせた選択をする必要があります。

単純承認
すべての財産(プラス・マイナス両方)を引き継ぐ方法です。何も手続きをしない場合、自動的に単純承認をしたとみなされます。
× 被相続人の借金等がある場合、法定相続分に応じて引き継ぐことになる。
最も基本的なケース。相続放棄にも限定承認にも当てはまらない場合、こちらを選ぶことになる。
 

➁限定承認
プラスの財産の範囲内で借金を返済し、残りの借金を免除してもらう方法です。相続財産の全容が分からない場合などに選びます。
× 相続人全員が共同で申述する必要があり、反対者がいると選べない。
× 手続きがかなり煩雑で時間がかかる。
財産調査の結果、借金が判明しても返済義務を負わない。
プラスの財産だけを引き継ぐことができる。
 

相続放棄
すべての財産(プラス・マイナス両方)を放棄する手続きです。これにより、申請人は最初から相続人ではなかったことになります。
× 引き継ぎたい財産があったとしても、全て放棄しなければいけない。
単独ででき、他の相続人の同意は不要である。
相続手続きを一切行わずに済む。

相続放棄が必要なケース

負債が多い場合
相続財産の調査の結果、借金やローンなどのマイナスの財産がプラスの財産を大幅に上回る場合。

具体例:
父親が亡くなった後、自宅の住宅ローンが2,000万円以上残っていることが判明しました。一方で、プラスの財産である預金は500万円程度です。
この場合、相続を承認してしまうと、1,500万円以上の負債を引き継ぐことになります。

管理が難しい財産がある場合
不動産や高額な維持費がかかる財産など、負債でなくとも管理が難しい財産を相続したくない場合。

具体例:
親から山奥の別荘を相続しましたが、維持費や固定資産税が年間数十万円かかるうえ、売却も難しいです。
このような場合、相続放棄を行えば管理や税金の負担から解放されます。

親族間のトラブル回避
遺産分割協議がこじれていたり、親族間の関係が良くないため、トラブル予防のためにする場合。

具体例:
4人兄弟の相続で、相続人である長男が「すべての財産を自分が相続すべき」と主張し、対立が激化してしまっています。こうした状況で相続放棄をすることで、争いから距離を置く選択ができます。

被相続人と疎遠で、状況が不明な場合
被相続人と長年疎遠で、財産状況が不明な場合。

具体例:
疎遠だった親戚の死亡通知を受けましたが、財産の状況が全く分かりません。
相続を承認してしまうと、後から多額の負債が発覚しても責任を負わなければなりません。

相続放棄の手続き方法

まず最初に、被相続人の財産を調査する必要があります。負債の有無や資産の内容を把握し、相続放棄を行うかを決めましょう。相続放棄をすると撤回ができないので、慎重な判断が必要です。
また、調査中であっても、財産を処分してしまうと相続放棄ができなくなる場合があるので注意しましょう。

<調査するもの>
・預貯金通帳や金融機関の通知書
・不動産登記簿謄本
・負債(借用書、ローン契約書、未払いの税金など)の確認

相続放棄の必要書類は、被相続人との関係により変わります。共通して必要なのは以下の通りです。

・相続放棄申述書(家庭裁判所のウェブサイトから入手可能)
・被相続人の戸籍謄本(死亡の記載があるもの)
・被相続人の住民票除票(または戸籍の附票)
・申述人の戸籍謄本

<費用の目安>
・収入印紙代:800円
・郵便切手代:およそ500円
・戸籍謄本等の取得費用:約1,500円〜3,000円

必要書類を揃えたら、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ提出します。
最後の住所地というのは、被相続人が亡くなった時の住民票の場所です。
管轄の家庭裁判は、家庭裁判のウェブサイトから確認できます。

申述後、家庭裁判所から「照会書」が送付されます。これは、相続放棄の意思確認のための質問書です

<照会書の内容例>
・被相続人との関係
・相続財産の有無
・相続放棄を行う理由 など

すべての手続きが完了し、家庭裁判所が相続放棄を認めた場合、「相続放棄申述受理書」が発行されます。これで正式に相続放棄が成立します。

相続放棄の注意点

3ヶ月以内の期限がある

相続放棄は、「相続の開始を知った時から3ヶ月以内」に家庭裁判所へ相続放棄の申述を行わなければなりません。この期間は「熟慮期間」と呼ばれ、財産や負債の調査を行うための時間として設けられています。
3ヶ月を過ぎると、自動的に「単純承認」とみなされ、すべての財産と負債を相続することになります。
財産調査に時間がかかる場合は、家庭裁判所に熟慮期間の延長の申し立てが可能です。

「気付いたら3ヶ月を過ぎていた!」もう相続放棄はできない?

被相続人に相続財産が全く存在しないと信じた相当の理由がある
相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があること
このような事情が認められれば、3ヶ月以上経過していても相続放棄が認められる場合があります。
専門家に必ずご相談ください。

一部の財産を使用すると放棄できなくなる

相続放棄を検討している間に、被相続人の財産の一部でも処分・使用すると、「単純承認」と見なされる可能性があります。葬儀費用の支払いなど、最低限の費用負担は例外として認められる場合がありますが、事前に専門家へ確認することが望ましいです。

<財産の使用となる行為>
・被相続人の銀行口座から現金を引き出す
・被相続人名義の不動産を売却する
・家財道具を処分する

代襲相続が発生しない

相続放棄をした場合、「初めから相続人ではなかった」と見なされます。そのため、相続放棄した人の子供(孫など)が代わりに相続する「代襲相続」は発生しません。
父親が相続放棄を選択した場合、その子供(被相続人の孫)は自動的に相続人とはなりません。

相続は、専門的な知識が求められるため、判断に迷った場合は早めに司法書士などの専門家へ相談することをおすすめします。適切な手続きを踏むことで、余計なトラブルを避け、スムーズな相続対応が可能になります。


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