

「相続手続きをしたいのですが、相続人が10人以上いて、会ったこともない遠縁の親戚もいます。高齢の方が多く連絡を取るのも大変で、遺産分割が進みません…」
「相続人が多かったり、話し合いが難航したりする場合、『相続分の譲渡』という方法で解決できるケースがあります。あまり聞き慣れない制度かもしれませんが、当事務所でもよく活用しています。今回は、どのような場面で相続分の譲渡が役立つのか、実際の解決事例を交えてわかりやすく解説します。」

1.「相続分の譲渡」とは?
「相続分の譲渡」とは、自分が持っている遺産全体に対する持分(相続人としての地位そのもの)を、他の相続人や第三者に譲り渡すことです。
譲渡は、有償で行うことも、無償で行うことも可能です。
譲渡を受けた人は遺産を相続する権利を取得し、その後の遺産分割協議に参加する立場になります。
一方で、譲渡した人は相続人としての地位を失い、相続関係から離脱します。
1-1.似ているようで違う「共有持分の譲渡」
似た言葉に「共有持分の譲渡」というものがあります。こちらは、遺産に含まれる特定の不動産に対する共有持分権だけを譲り渡すもので、中身は大きく異なります。
相続分の譲渡 | 共有持分の譲渡 | |
|---|---|---|
| 対象 | 遺産全体に対する包括的な地位 | 特定の不動産など個別の財産 |
| タイミング | 遺産分割協議の前 | 遺産分割協議の後 |
| 効果 | 遺産分割協議に参加する立場ごと移転する | その財産の共有持分だけが移転する |
2.なぜ「相続分の譲渡」が必要なの?
「そもそも遺産分割協議をすればよいのでは?」と思われるかもしれません。その通りです。
しかし、遺産分割協議は相続人全員の、『実印での押印・印鑑証明書の添付』がなければ成立しません。
相続人が高齢で施設に入っていたり、遠方に住んでいたり、面識のない親戚がいたりすると、話し合いや書類のやり取りだけで膨大な時間がかかります。
放置している間に別の相続人が亡くなり、さらに相続人が増えてしまうリスクもあります。
こうした、遺産分割協議が長引きそうな場面で、相続分の譲渡が力を発揮します。
3.相続分の譲渡を活用した解決事例
事例1.相続人が十数名!協力してくれない相続人がいる場合
・約30年前に被相続人が死亡
・地方の土地1筆の相続登記を希望
・戸籍を収集したところ、数次相続により孫・曾孫を含め相続人が十数名に
相続人同士が顔も名前も知らない状態。さらに相続人の一人が「手続きの内容がよくわからない」という理由で、遺産分割協議書への署名捺印に協力してくれない状況でした。
解決策:
協力が得られない相続人から、顔見知りの他の相続人へ「相続分の譲渡」を行う形に切り替えたことで、無事に解決を図ることができました。
※相続人間で意見の対立や協力拒否がある場合、内容によっては弁護士による交渉が必要になるケースもあります。必要に応じて弁護士をご紹介することも可能です。
事例2.遺言書がない!血縁のない恩人に財産を渡したい場合
・子供のいない被相続人が死亡
・生前、血縁関係のない義理の弟に介護等の面倒を見てもらっていた
・「義弟に不動産を遺贈したい」と考えていたが、遺言書を作る前に急死
遺言書がないため、本来の法定相続人である、被相続人の兄弟姉妹に遺産が渡ってしまう状況でした。
解決策:
被相続人の生前の意思を知っていた本来の相続人たちが、義理の弟に対して「相続分の譲渡」を行い、被相続人の希望通り財産を引き継ぐことができました。
なおこの事例は、生前に遺言書を作成していれば、より確実かつスムーズに実現できたケースでもあります。終活や遺言書の作成は、ぜひお早めにご検討ください。
4.相続分の譲渡の4つのメリット
自身は遺産を相続しなくてもよいと考えている場合、相続分を譲渡することで以下のメリットがあります。
- 遺産分割協議がスムーズに進みやすくなる
当事者が減り、または話がまとまりやすい人に権利を移せることがあります - 譲渡したい相手を自由に選べる
相続放棄と違い、財産を渡したい人へピンポイントで渡せます - 遺産分割協議の終了を待たずに金銭を得られる可能性がある
有償譲渡の場合に限ります - 面倒な相続手続きや、親族間のトラブルから離脱できる
譲渡契約を結べばよいので、相続放棄のような家庭裁判所での手続きは不要です
相続人という立場から外れるため、遺産分割協議に参加する手間やストレスから解放される点は大きなメリットです。
5.【重要】相続分の譲渡のデメリットと注意点
非常に便利な制度ですが、知っておくべきリスクやデメリットもあります。
5-1.借金(相続債務)からは逃れられない
相続分を譲渡して手続きから離脱しても、債権者に対して「相続分を譲渡したから借金は払いません」とは主張できません。
譲渡を受けた人が返済を滞らせた場合、元の譲渡人に請求が来るリスクが残ります。借金が多い相続では、譲渡ではなく「相続放棄」を検討すべき場合もあります。
5-2.遺言内容によっては譲渡できないことも
遺言書で「不動産の2分の1をAに、2分の1をBに相続させる」のように具体的な遺産分割方法が指定されている場合、それは「相続分」ではなく「共有持分」として扱われます。
そのため、遺産分割前であっても相続分の譲渡はできなくなります。
5-3.「相続分の取戻権」に要注意(第三者に譲渡する場合のみ)
民法905条に「相続分の取戻権」という権利が定められています。これは、見知らぬ第三者がいきなり遺産分割協議に入ってくるのを防ぐための制度です。
相続人の一人が相続人以外の第三者に相続分を譲渡した場合、他の相続人は、1ヶ月以内であれば、その相続分の価額と費用を弁償したうえで、相続分を取り戻すことができます。
つまり、第三者への譲渡の場合、譲受人はしばらくの間、不安定な立場に置かれることになります。
なお、譲受けた人が相続人であれば、この取戻権の対象にはなりません。
※譲渡に伴い、贈与税などの税金が発生する可能性もあります。税務上の確認も必要です。
6.手続きには「相続分譲渡証明書」が必要
相続分の譲渡自体は口頭でも有効ですが、後々のトラブルを防ぐため、そして登記手続きに使用するため、「相続分譲渡証明書」を作成します。
この証明書には実印での押印と、印鑑証明書の添付が必要です。
なお、相続分の譲渡はあくまで「相続人としての地位」を移すものです。譲受人が相続分のすべてを取得して単独相続人にならない限り、譲渡後も、譲受人を含めた相続人間で改めて遺産分割協議を行う必要がある点にご注意ください。
7.お困りの方は足立区北千住のゆかり法務事務所へ
相続分の譲渡は、相続人が多く、話し合いが進まない相続を解決する有効な手段の一つですが、債務の扱いや取戻権など、専門的な判断が必要な場面も多い制度です。
・相続人が多く、誰に何を聞けばいいか分からない
・一部の相続人が手続きに協力してくれない
・遺産分割協議書への押印をしてもらえず困っている
・血縁のない方に財産を渡したいが、遺言書を作っていなかった
このようなお悩みをお持ちの方は、ぜひ当事務所の無料相談をご利用ください。
東京都足立区北千住のゆかり法務事務所では、司法書士・行政書士が状況を丁寧にお伺いしたうえで、最適な解決策をご提案いたします
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東京都足立区千住中居町17-20 マルアイビル 6階 北千住駅から徒歩8分

執筆・監修:司法書士 劉 洋
(東京司法書士会 第9358号/簡裁訴訟代理関係業務 第2301023号)

執筆・監修:司法書士 劉 洋
(東京司法書士会 第9358号/簡裁訴訟代理関係業務 第2301023号)
専門分野:国際相続を含む複雑な相続、不動産登記、商業登記
「難しい法律を、誰よりも分かりやすく。皆さまの不安を納得と安心に変えるため、未来まで見据えた解決策を共に模索します。」
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8.よくある質問
Q. 「相続放棄」と「相続分の譲渡」は何が違うのですか?
A. 手続きの窓口と「特定の相手に権利を譲れるかどうか」が大きく異なります。
・相続放棄: 亡くなってから3ヶ月以内に家庭裁判所へ申し立てる必要があります。初めから相続人ではなかった扱いになるため、「特定の人に自分の権利を譲る」といった指定はできません。
・相続分の譲渡: 裁判所を通さず、当事者同士の合意で成立します。3ヶ月の期限縛りもなく、「特定の人に引き継ぎたい」という柔軟な指定が可能です。
Q. 相続分を譲渡すれば、亡くなった方の借金を背負わずに済みますか?
A. いいえ、金融機関などの債権者に対しては支払いの義務が残ります。
当事者間で「借金もすべて譲受人が引き受ける」と合意しても、その合意を債権者(銀行など)に対抗することはできません。借金を理由に請求された場合、譲渡した人が支払いを拒否することはできないのです。明らかな債務超過がある場合は、相続分の譲渡ではなく、家庭裁判所での「相続放棄」を選択する必要があります。
Q. 他の相続人に内緒で、特定の相続人にだけ相続分を譲渡できますか?
A. 譲渡契約自体は、他の相続人の同意がなくても当事者間だけで有効に成立します。
ただし、その後に不動産の名義変更(相続登記)や預貯金の解約を行う際には、遺産分割協議書や登記申請書類に「相続分譲渡証明書」を添付するため、最終的には他の相続人にも譲渡の事実が伝わります。後々のトラブルを防ぐためにも、事前に事情を共有しておくか、専門家を交えて進めるのが安心です。
Q. 相続分譲渡証明書は自分で作成できますか?司法書士に依頼するメリットは何ですか?
A. 書面自体はご自身でも作成可能ですが、法務局での相続登記を見据えるなら司法書士への依頼をおすすめします。
相続分譲渡証明書は、厳格な要件を満たす必要があります。少しでも不備があると法務局で登記申請が却下され、遠方の親戚や高齢の親族からハンコをもらい直す事態になりかねません。司法書士にご依頼いただければ、不備のない書類作成から関係者への案内、不動産登記までお任せいただけます。







