

「私たち夫婦には子供がいません。私が亡くなった後も、妻が安心して家に住み続けられるよう遺言を書きたいのですが、“配偶者居住権“というものは必要なのでしょうか?」
「子供がいない夫婦の場合、遺言によって全財産を配偶者に渡すことができるため、配偶者居住権は基本的に不要です。
しかし、ケースによってはトラブル防止や税金対策のために必要になることがあります。今回は、どんな場合に配偶者居住権を検討すべきかを、具体例を挙げて解説します。」

1.「配偶者居住権」とは?多くの場合「不要」である理由
2020年4月に新設された配偶者居住権(民法 1028条)は、残された配偶者の住む場所を守るための制度です。
これがあれば、配偶者は亡くなるまで、無償で住み続けることができます。
1-1.配偶者に住み続けて欲しい場合、どうすればいいの?
「子供がいない夫婦でも、兄弟に家を取られないよう、遺言で配偶者居住権を設定するべき?」
というご相談をいただくことがあります。
しかし、多くのケースでその必要はありません。
子どもがおらず、親もすでに亡くなっている場合、相続人は配偶者+兄弟姉妹になります。
兄弟姉妹には遺産をもらう権利である「遺留分」がありません(民法1042条)。
そのため、遺言に「全財産を配偶者に相続させる」と書いておくだけで、配偶者は他の相続人からの請求を気にせず、家も含めた全財産を相続できます。
つまり、「配偶者に住み続けてほしい」という目的だけであれば、配偶者居住権を使わなくても、シンプルな遺言で十分に目的を達成できます。
2.配偶者居住権を活用すべき3つのケース
では、どのような場合に配偶者居住権が必要なのでしょうか?
それは、「配偶者には住み続けてほしいが、その後は所有権を別の人に渡したい」「遺留分をめぐる相続トラブルを防ぎたい」といった場合です。
ケース① 妻には生涯家で暮らしてほしいが、その後は甥に継がせたい
遺言者=夫 相続人=妻と夫の甥
子供のいない夫婦で、夫が先祖代々の土地を所有しているケースです。
妻が亡くなった後は、夫の血縁である甥に土地を継いでほしいと考えています。
しかし、単に「妻に相続させる」と遺言すると、妻が亡くなった際にその土地は妻の兄弟などに渡ってしまい、夫側の血縁に相続させることができなくなります。

解決策:
・不動産の所有権を夫の甥へ相続させる
・妻のために配偶者居住権を設定する
妻は生きている限りその家に無償で住み続けられます。妻が亡くなった時点で配偶者居住権は消滅し、甥が完全な所有権を取得します。
これにより、妻の生活保障と、先祖代々の土地を血縁に残すことの両立が可能になります。
ケース② 親が存命で、財産の大半が不動産の場合
遺言者=夫 相続人=妻、夫の母
財産: 自宅3,000万+預貯金600万円 (合計3,600万円)
子供がおらず、親が存命の場合、相続人は配偶者と親になります。
親には遺留分(6分の1)があるため、このケースでは義母が600万円分の権利を持ちます。
「妻に全財産を相続させる」という遺言だけでは、義母から遺留分侵害額請求をされた場合、妻は手元の現金を失うか、最悪の場合自宅を売却して現金化せざるを得なくなります。

解決策:
・妻が相続: 配偶者居住権 1,500万円+ 預貯金 600万円
・義母が相続: 負担付所有権 1,500万円
妻は自宅での生活と手元資金の両方を守ることができ、
義父も「負担付所有権」という形で財産を取得するため遺留分の問題をクリアできます。
ケース③相続税の節税につながる場合
遺言者=夫 相続人=妻、夫の甥
財産: 自宅6,000万円+預貯金2,000万円 (合計8,000万円)
夫の甥に家を継いでほしい場合を考えます。
妻が全財産を相続する場合(一次相続)、配偶者の税額軽減により相続税は0円で済みます。
しかし、その後妻が亡くなった際には妻から甥への財産の遺贈にこの控除は使えません。自宅6,000万円が相続税(2割加算)の課税対象となり、甥に大きな税負担がのしかかります。

解決策:
配偶者居住権を活用し、不動産の価値を分けて相続します。
・妻が相続: 配偶者居住権 3,000万円+ 預貯金 2,000万円
・甥が相続: 負担付所有権 3,000万円
配偶者居住権は妻が亡くなった時点で消滅するため、妻から甥へ引き継がれることはありません。
甥は一次相続の時点で負担付所有権に対する相続税のみを負担すればよく、遺贈で自宅の全額に課税されるよりも、負担を大幅に抑えられます。
※ここでの配偶者居住権の評価額は、計算をわかりやすくするための簡易的な例です。
実際の配偶者居住権の評価額は、配偶者の年齢・平均余命などをもとに算出され、単純な折半にはなりません。
3.遺言書の文例と作成のポイント
配偶者居住権を遺言で設定する場合、法律上無効にならないよう正確な文言が求められます。
トラブル防止のため、公正証書遺言での作成をおすすめします。
【ケース③の遺言書の記載例】
第〇条(配偶者居住権)
遺言者は、妻山田花子(昭和50年1月1日生)に対し、遺言者の所有する下記建物の配偶者居住権を遺贈する。なお、配偶者居住権の存続期間は、妻山田花子の終身の間とする。
※建物の表示
第〇条(建物の負担付所有権)
遺言者は、遺言者の有する下記建物の負担付所有権を、甥法務太郎(平成6年1月1日生)に遺贈する。
※建物の表示
第〇条(土地の所有権)
遺言者は、甥法務太郎に、次の土地の所有権を相続させる。
※土地の表示
【実務上の注意点】
遺言書で配偶者居住権を設定する場合、「相続させる」ではなく「遺贈する」という文言を使用します。
4.子供のいない夫婦こそ「その先」まで見据えた遺言を
子どもがいない夫婦の場合、「とりあえず配偶者に全財産を残す」という遺言は、一次的な対策としては非常に有効です。
しかし、
・その後、財産を誰に渡したいか
・親や前婚の子など、遺留分を持つ相続人がいないか
・相続税の負担を抑えられないか
まで考えるのであれば、配偶者居住権を活用した遺言設計が大きな力を発揮します。
ご自身のケースで配偶者居住権の設定が必要かどうかは、家族構成や財産の内容によって異なります。
迷われた場合は、相続に強い司法書士や行政書士へのご相談をおすすめします。
当事務所(東京都足立区北千住 ゆかり法務事務所)では、遺言書の作成から相続手続きまで一貫してサポートしております。初回無料相談を行っておりますので、お気軽にお問い合わせください。
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執筆・監修:行政書士 岡野 由佳梨
(東京都行政書士会 第24080267号)

執筆・監修:行政書士 岡野 由佳梨
(東京都行政書士会 第24080267号)
専門分野:遺言、終活、円満な相続手続き、ビザ申請。
「ご本人にとって『最善な選択』になるよう、お一人おひとりに合わせた提案を心掛けています。どうぞお気軽にご相談ください。」
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5.よくある質問
Q. 子供がいない夫婦の場合、なぜ配偶者居住権は「原則不要」なのですか?
A. 「全財産を配偶者に相続させる」という遺言書があれば、配偶者が家の所有権を全て取得できるためです。親が既に他界している場合、法定相続人となる兄弟姉妹には遺留分がありません。
そのため、相続分を請求されるリスクがなく、配偶者居住権をわざわざ設定しなくても家を守ることができます。
Q. 配偶者居住権を設定した場合、登記手続きは必要ですか?
A. はい、法務局での登記手続きが必要です。登記をしておかないと、建物の所有権を持つ人が第三者に不動産を売却したり担保に入れたりした際、配偶者が「住み続ける権利」を第三者に対して主張できなくなります。
Q. 配偶者居住権を設定した自宅は、将来売却できますか?
A. 配偶者居住権が設定されている間は、売却はまず不可能です。配偶者が住む権利は買主に対抗できるため、買う人はいないでしょう。売却したい場合は、「建物の所有権を持つ人」と「配偶者」の双方が合意した上で、配偶者居住権を合意解除してから売却する必要があります。
Q. 子供がいない夫婦が遺言書を残さないと、相続はどうなりますか?
A. 配偶者と亡くなった方の親が相続人になります。親がすでに亡くなっていれば兄弟姉妹(甥・姪)が相続人になります。
遺産を分けるには相続人全員による「遺産分割協議」が必要となり、疎遠な義理の兄弟姉妹とも話し合いを持たなければならず、トラブルや手続きの長期化につながりやすくなります。
Q. 子供のいない夫婦が遺言書を作成する場合、自筆と公正証書どちらが良いですか?
A. 原則として「公正証書遺言」をおすすめします。形式不備による無効リスクを防げるほか、原本が公証役場に保管されるため紛失や改ざんの危険がありません。また、相続開始後に家庭裁判所での「検認手続き」が不要となるため、残された配偶者がスムーズに預貯金の解約や不動産の名義変更を進められます。







